君の日々に、そっと触れたい。
「あんさん、そないなとこで立ち止まってどないして………………あれ、桜ちゃんやないの?!」
「え、あれ………夕実ちゃん?」
音に驚いて振り返ると、私服姿の夕実ちゃんが自転車に跨っていた。
「桜ちゃんは学校帰り?」
「あ……うん。…夕実ちゃんはなんで私服?」
確か私と同い年だって李紅から聞いたから、今日も普通に高校のはずだけど。
「病院の帰りやから、1回家帰って着替えてん」
「病院っ?」
「あ、いやどこも悪ないよ?でも癌って再発しよるから、1回やるとその後も定期的に検診したりすんねん」
「そうなんだ………」
全然知らなかった。もう治ってるらしい夕実ちゃんですら定期的に通院するなら、李紅も私の知らないところで、結構頻繁に病院に出入りしたりしてるのだろうか。
病気友達……李紅は夕実ちゃんをそう称してた。それは、どれだけ一緒に李紅のノートの願いを叶えても、決して私には踏み込めない領域なんだ……。
そんなことを悔しいとか思うのは、どうしてなんだろう。
「──で、桜ちゃんは道端で立ち止まってどないしたの?」
「あ……えっと、李紅の家に行こうか行かないか迷ってて……」
「そうなん?!偶然やなぁ!うちも今りぃちゃんちに向かっててん!」
「えっほんと?」
「ほんま。せや、一緒に行こ!」
そう言って夕実ちゃんは自転車のカゴに入れていたコンビニの袋を指さした。
「それ………なに?」
「これ?ポカリと果物やで。りぃちゃんにあげよう思って」
「え、なんで李紅に?」
「あれ、聞いてへん?りぃちゃん昨日から体調悪いゆうて寝込んでてん」
────え………寝込んでる……?李紅が?
そんなこと、一言も聞いていない。
それどころか……LINEの返信すら来てない。
「…あ、うちも別にりぃちゃんから聞いたんやないで?うち親同士が仲良いから、それで聞いただけやで!」
私の考えてることを察したのか、夕実ちゃんは慌てたようにそうフォローしてくれたけれど、なんにしたって、李紅が私に何も言ってくれなかったことに変わりはない。
李紅にとって………私ってなんなんだろう。
色々なことを考えてしまい黙り込む私を、夕実ちゃんは一生懸命気遣ってくれてなんだか申し訳なくなりながらも、私たちは李紅の家へとたどり着いた。