君の日々に、そっと触れたい。
暫くしてお母さんが私たちの飲み終わったカップを手に部屋から出ていくと、片付けを手伝うと言って夕実ちゃんも部屋を出ていき、私たちは二人きりになった。
李紅はなかなか寝付けないのか、楽な姿勢を探すように落ち着きのない寝返りを繰り返す。その顔色はさっきよりも酷くて、思わずこっちが不安になる。
「李紅……大丈夫?気分悪い?」
「…ううん、平気。ごめんな…桜」
「なにが……」
「情けないとこみせちゃってさ」
「そんなこと……」
そんなこと、ない。
あと一年しか生きられないと言われても、前向きに生きている李紅。その笑顔と明るさに惑わされて、李紅が影でこんなに苦しんでいることに気づかなかった私の方が……よっぽど情けない。
「ねぇ………李紅。私ってそんなに頼りない?」
「………………そんなこと」
「そうでしょ?だって李紅は私には何も頼ってくれない。大丈夫、とか。平気、とか。いつもそれしか言わないっ」
「違う、それは…っ」
私の言葉に、李紅は飛び起きて首を横に振り、強く否定した。
「………桜には、こうゆう姿見せたくなかっただけだ………」
”こうゆう姿”とは、今のような状態のことだろうか。
「………どうして?」
そう尋ね返せば、李紅は言いづらそうに目を逸らした。そして控えめな小さな声で呟いた。
「…………だって……かっこ悪いし」
───……はぁ?!
思わず拍子抜けする。
なんだその理由。
「いや、意味わかんないんだけど…。私の前でかっこつけてなんの得があるわけ?」
「別にかっこつけてないよ!かっこ悪いとこ見せたくないだけ」
「それなにが違うの!?」
「全っ然違うよ!いーよもう桜には永遠に分かんないから!」
「いや、なに逆ギレしてんの?!」
「してねーよ!桜こそカリカリしちゃってさ!カルシウム足りてないんじゃない?」
「寝込んでる人に言われたくないです〜!」
李紅の一言をきっかけにシリアスな空気はふっとび、私たちはまるで小学生みたいな言い合いを始めた。
やがて、どちらからともなく、顔を合わせてくすくす笑い出した。
「ばっかみてぇ~」
「ほんとにねー」
お腹を抱えてケタケタ笑う李紅は、さっきよりも顔色が良くなったように見えた。