君の日々に、そっと触れたい。

「いつかのその日まで」

【李紅 side】



『李紅、何歳になりましたかー?』

『ろくさい!』

『李紅の将来の夢は、なんですか~?』

『うちゅうひこうし!』


毎年、誕生日になると、母さんは必ずビデオカメラを片手に、俺にそう尋ねた。

俺は友達の真似をして宇宙飛行士だの、消防士だの、警察だの、適当に答えていたけれど、そのどれもよく知らなかった。


そして、いつからだったろう。

毎年繰り返されていた『将来の夢はなに?』が、『今年の目標はなに』に変わったのは。

ただの気まぐれかもしれないし、俺が適当に答えてるのに気づいたからかもしれない。

だけどその頃、まだ小さかった俺は、「俺には将来なんて無いんだ」としか、考えられなかった。


その頃から俺は、”死”を意識するようになり、それと同時に、色んなものをさらりと受け流すようにして、生きていこうとしていた。


大切なものは、無い方がいい。
大切な人に泣かれるのは嫌だから。

でも独りは寂しいから、俺のこと、可愛そうだなんて思わない、俺が死んでも泣いたりしない人と、寄り添いたい。


そうして、やっと見つけた。

生きることに執着の無い人。


きっと彼女は俺が死んでも泣いたりしない。羨ましいとさえ思うかな。だとしたら、そんな嬉しいことがあるだろうか。




………けど、彼女を笑顔にさせる度、彼女は心を取り戻し始めた。

そしてついに…………




『私……李紅に死んで欲しくない…!』




ああ、やっぱり、桜だって。


嫌悪感よりも、罪悪感の方が重かった。

桜を泣かせてしまったこととか、傍にいてほしいと強請ったこと。

俺と出会わなければ、桜はこんな想いをせずに居られたのに。



『私は、私はね………李紅……』


その言葉の続きを知っていた。

俺もおんなじ気持ちだった。


それでもこれ以上桜を苦しめるのが怖くて、聞いてあげられなかった。伝えてやれなかった。


それなのに、桜から離れたくはない。気持ちには答えられないのに、傍にいてほしい。

桜が嫌だと言えないのを分かっていて、そう願った。



………ほんと、ずるいな俺。



何かしてやれたらと思っていたのに、最終的に桜を1番に苦しめたのは、俺だった。






俺も好きだよ、桜。




たった一言が、どうしても言えない。

言っては、いけない。




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