君の日々に、そっと触れたい。


「そーいやさ、なんで李紅って彼女作らないんだ?」


そう唐突に切り出したのは太陽。


「え?」

「いや だってさ、お前モテるのに彼女いるっぽい感じしないじゃん?」

「うん、てか居たことないよ」

ええ~、と太陽と浩平は信じられないと言うような顔をした。

そんなに驚くことだろうか、中学生なんてそんなもんじゃないのかな。

……そもそも俺には、そんな余裕ないけど。


ちらりと賢太郎を見やると、賢太郎は何も言わずに俯いていた。


───学校の生徒では唯一、賢太郎は知ってる。俺が、もうすぐ死んでしまうってこと。

俺が寝ている間に母さんが話したらしかった。何で勝手に喋っちゃうんだ、と咎めたい気持ちもあったけど、自分じゃきっと一生言えなかったから、これでよかったのかもしれない。


「んーじゃあさ、好きな人は?」

「え?」

「好きな人くらいはいるだろ?」


───好きな人……。


脳裏に浮かんだのは、桜の顔。



「ああ、まぁ………居るよ」


特に嘘をつく必要もないだろうと、素直にそう答えると、太陽はまじか!と前屈みなり、予想以上に食い付いてきた。


「彼女ではないってことは……片思いか?!そんな顔で!?」

「………あー……、えっと…」


まいったな。

おそらく両想いだけど余命幾ばくないのに恋人になんてなれない、

とはっきり言ってもいいかもしれないけれど、みんなで談笑しながら弁当を食べるこの穏やかな空間を、重い空気にしたくはない。


「えっと……わかんないけど、別に告白しようとかって気は全然無いんだ」

「え~!もったいない!絶対OK貰えそうなのに~」

「そうかな。でもいいんだ、今はこうゆう風に学校行くのが楽しいから。彼女なんて要らない」


当たり障りなく付き合う気はないと伝えると、太陽は納得いかなそうな顔をしながらも、そっかぁ……と頷いた。
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