君の日々に、そっと触れたい。
いつもの海辺まで振り返らず歩いて、李紅はようやく立ち止まった。
「はぁ……緊張したぁ」
そう崩れるように座り込んだ李紅は、すっかりいつもの李紅に戻っていた。
「びっくりしたよ、李紅。あんな大胆なことするんだね………」
「余計だった?」
「全然!!ありがとう……。多分雪奈、何もしてこなくなると思う」
「ごめん、和解して仲良くなる方法もあったかもしれないのに。俺が説教みたいな空気にしちゃって」
「大丈夫。仲良くなんて、なろうと思えばきっといつからでもなれるんだよ。だって……」
だって、生きていけるから。
飲み込んだその言葉は、口に出さなくても李紅には伝わっていた。
「……私ね。本当はなんとなく気付いてたんだ。雪奈も、根っから悪い人じゃないんだって。でもだからって、許したくなかったの」
「………なんで?」
「………だって、誰かを悪役にしないと、自分の心が弱いのを、自分のせいだと認めなくちゃいけなくなるから」
こんな私は、もしかしたら雪奈よりもよっぽどタチが悪くて、ずるい。
それでも、死にたいとまで願うほど弱い自分の心を、誰かのせいにしていないと、息苦しくて壊れそうだった。
両親の愛情を横取りした弟に殺意を抱いたあの時から、きっと私の心を醜く歪んでいた。
ただそれを、認めたくなかった。
「そうして現実逃避して、全部なくなればいいと思って冷たい海に沈んだ。そこから、李紅は何度も救い出してくれた」
出会った日から、君のくれた言葉の何もかもが、暖かく包み込んでくれた。時に厳しく突き放されても、必ず救い出してくれた。
「…李紅の、強かな笑顔が好きだよ」
どんな時も絶やさないその笑顔に、どれだけ叱咤されただろう。
「李紅が……………好きだよ」
李紅はほんの一瞬だけ、その大きくて蒼い瞳を見開いた。
だけどその次の瞬間には、表情を隠すように俯いてしまった。