君の日々に、そっと触れたい。
「李紅………!」
オペ室の前の椅子に座って、夕実ちゃんと李紅を待っていると、酷く青ざめた様子で李紅の両親がやって来た。
「お母さん………」
「桜ちゃん!一体何があったの!?」
「……分からないんです。救急車が到着してすぐ緊急手術になりました…」
「先生は、頭の中に水が溜まってるとか言っとった……」
救急車が到着してからの記憶が曖昧だ。
ストレッチャーに乗せられて運ばれていく李紅を、必死で追いかけながら名前を呼んだ。
それで先生に、手術になることを伝えられて、そのままオペ室に……。
その時李紅の容態について色々教えられて、私は必死で耳を傾けたけど、結局その半分も理解出来ていない気がする。
私の話を聞いて、お母さんは泣いた。
「…………そうか。ありがとう、ついていてくれて」
お父さんはそう言って笑ったけれど、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
その瞳は強がって笑ういつもの李紅と同じ色をしていて、私はまた泣きそうになる。
不意に、オペ室の扉が開いて、中から手術着姿の先生が姿を現した。
「先生、李紅は………!」
お母さんにつられて駆け寄ると、先生は笑顔を浮かべずに言った。
「危険な状態でしたが、一命は取り留めました」
───……よかった……………!
その言葉に、ひとまずは皆、ほっと胸を撫で下ろした。
けれど先生はしかし、と言葉を繋ぐ。
「肥大した脳内の腫瘍が、髄液の流れをせき止めていたようです。なので身体の中にチューブを通し、髄液が腹腔内へ流れるように処置しましたので、水頭症は改善されると思います。ただ……」
「……原因となった腫瘍はやっぱり、取り除けなかったんですか」
先生の話に割って入ったのは、涙声のお母さん。
先生は、バツが悪そうに目を伏せて、無言で頷いた。
「……そうですか…」
先生の背後、ストレッチャーに乗せられた李紅がオペ室から出てきた。
お母さんとお父さんの治療について話があると先生に別室に呼ばれ、李紅の体はそのまま、ICUのベッドへと運ばれた。