君の日々に、そっと触れたい。
けたたましいサイレンの音。
救急車だ。
その耳を塞げたくなるような轟音が、私を叱咤する。
私は李紅のシャツのボタンを第三まで閉めると、震える足を叩いて立ち上がった。
「私、救急隊員の人を誘導してくる」
そう言って人混みの中に飛び込めば、夕実ちゃんは満足そうに「ありがとう」と大きな声で私の背に言葉を投げた。
もう、震えない。
私は必死で人込みを掻き分け、救急車から降りてきた隊員の人に李紅の居場所を伝え、ストレッチャーの通る道をつくるよう、野次馬たちに声をかけた。
隊員の人は落ち着いた様子で夕実ちゃんに状況を伺いながら、李紅をストレッチャーに移し、あっというまに救急車へと運び込む。
搬送先が李紅の行きつけの病院に決まり、私と夕実ちゃんだけが救急車に同行することになった。
李紅の友だち三人には、名前と連絡先を聞いて、後で必ず連絡すると約束した。
夕実ちゃんは車内で、冷静を取り繕った声で、李紅の両親に電話をしていた。
李紅は救急車に乗せられたと同時に、たくさんのよく分からない機械を体に繋がれた。未だに目を覚ます様子はない。
握った手はやっぱり異様に冷たくて、壊れそうな不安を隠すように、強く握った。