君の日々に、そっと触れたい。
私がベッドを少しだけ起こすと、李紅は背中とベッドの間に枕を挟んでだるそうに座った。そしてようやくスプーンを手にして、渋々と言った表情でコーンスープを少し口にした。
お肉も食べて、と私に咎めらて嫌々鶏肉を小さく切って口に運ぶ。すごく慎重に一口ずつ咀嚼していくけれど、顔色は悪くなっていく一方だ。
「……もういい?」
そう言って疲れたようにスプーンを置く李紅。トレーの上の食事は半分も減っていなかったけれど、李紅のほんとうに辛そうな様子を見たら、もう少し頑張れなんて言えなかった。
「…………李紅。最近ずっとこうなの…?」
「……なんか、胃が受けつけなくて………。ごめん桜、ベッド倒して………横になりたい」
「あ、うん…………」
慌ててベッドを横にすると、李紅は小さくありがとうと笑った。
「……李紅、そんな体調で花火大会に行こうとしてたの?」
「…まさか、近頃はほんとうに調子良かったんだ。…でも言われてみれば足はふらふらしてたし、気分は悪かったかもしれない。でもそれも、特に珍しいことじゃなかったから……」
まさかいきなりぶっ倒れるとは思わなくて、と李紅は苦笑いをした。
笑い事じゃない。
「もう………心配したんだからね」
「ありがとう、ごめんね?」
なんだか今日の李紅はいつも以上にヘラヘラしている。
なんか、わざとらしい。
李紅は横になった後、楽な姿勢をさがしているのか暫くは落ち着きのない寝返りをうっていた。そして仰向けになって片腕で顔を覆ってしまう。
「李紅?眠い?」
「………ううん」
「眩しい?カーテン閉めようか」
「………いい」
「…大丈夫?気分悪いの?」
「………………ん」
短い返事。
なんだか無性に不安になった。
「…………李紅」
「……ん?」
「具合悪かったりしんどいところがあったら無理しないで言ってほしい。隠さないで」
「隠さないよ」
意外にも素直に返事をした李紅に、こっちが驚かされる。
「だって、隠せないし。隠さなくたって、昨日みたいに何の前触れもなく倒れたりするよ」
「昨日…みたいに?」
「………今日、朝一で術後検査で頭のCT撮ってもらったんだ」
「え?」
急な話題転換に戸惑う。
なんだろう、いつもの李紅じゃない。
「それで俺久しぶりに、自分の脳の中を見たんだ。…………吐きそうになったよ。真っ白い影が、前より一回りも大きくなってて、ほかの組織に張り付くみたいに広がってて、あれじゃあ確かに水も詰まるだろうし、手の施しようがない、って俺でもわかる」
想像もつかない。
頭の中に異様な細胞が出来て、それがどんどん成長して、周りの組織を圧迫する。そのせいで昨日みたいに倒れる。
どれだけ不安だろう。それを頭の中に抱えて生きていくなんて。それに李紅に関しては頭だけじゃない、肺にも同じように腫瘍がある。
「あんなものが頭の中に入ってたら、そりゃあ頭は痛くなるし、吐き気もするよな」
自嘲して李紅はそう言った。
掛けられらる言葉がない。今は何を言っても、同情に聞こえてしまう気がした。