副社長の一目惚れフィアンセ
「これからなんだけど」

お店を出て車を走らせていたナオが、信号待ちで停まり、私のほうを見て口を開いた。

「婚前ではあるけど、俺のマンションに引っ越してこないか?」

「え?」

「ウチからのほうが通勤は便利だし、この前見た君のアパートはあまりセキュリティがよくなさそうだ」

確かに…満員電車にもうんざりだし、私はアパートの1階に住んでいるから、夜中に物音がして怖くて飛び起きることもある。

物音の原因は、どうやらほとんどが風が吹いて外の木が揺れただけのようだけど、小心者の私にとってはとても怖いことなのだ。

…ついでに、街灯のランプはもう切れてしまって真っ暗だ。

「万が一の話…俺がDV男だったとか、そんなことが起きた場合には婚約破棄だってできるだろう?」

ナオはそう言っておどけてみせるけど、それは絶対ないと思える私は、完全に『恋は盲目』状態だと思う。

結婚すれば一緒に暮らすことになるのは当然で、それが少し早まるというだけの話。

結婚前にお互いのことを知っておくのはいいことかもしれない。

…もしかしたら、何をやってもダメな私がナオに愛想をつかされてしまうかもしれない。

その線が今のところ一番大きいな。

結婚してから『こんなはずじゃなかった』と思われて、愛のない結婚生活を送る羽目になってもお互い困るのだ。



< 57 / 204 >

この作品をシェア

pagetop