冷酷な騎士団長が手放してくれません
――彼は、私の下僕にございます。


かつて、ソフィアは自分とリアムの関係をそう表現した。


(下僕とは、どういう意味だ……?)


ニールはどうしても、その言葉の裏にソフィアとリアムの濃厚な繋がりを感じてしまう。





ソフィアの前から、伯爵夫人が立ち退いた。その一瞬の隙に、ソフィアは入口に視線を送った。


大勢の人込みの中、ソフィアの美しい瞳がリアムを捉える。


一秒足らずの、短い出来事だった。取るに足らない、些細な行動だ。


それでも、ニールの胸の奥に黒い感情が湧き上がる。





「恋は盲目、か……」


自分の感情を制すように、かつて本で読んだ文句を口にしてみた。


ニールは、どんな時も冷静な男だった。幼い頃から大人じみていて、大人たちを辟易させてきた経験もある。


それなのに、今のニールは感情に押し流されそうになっている。あってはならないことだ。


フッと息を吐き出し、ニールは自嘲気味に微笑んだ。湧き出そうになった感情を、どうにか呑み込む。





「ニール王子。どうした? 浮かない顔をして」


そこに、話しかけてくる者がいた。先ほど話別れたばかりの、アレクサンドル・ベルだ。






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