冷酷な騎士団長が手放してくれません
「まるで、気持ちを押し殺したかのような顔をしておる。君がそんな表情をするのは、珍しいな」


長い年月あらゆる物事を見て来た老人の目は、全てをお見通しらしい。


「あなたは、魔法使いのような人ですね」


心を言い当てられたことにドキリとしたが、ニールは平静を取り繕って冗談を口にした。


そんなニールを見て、老人はゆっくりと諭すように話しはじめる。


「人間、時には気持ちをぶつけることも大事だ。特に君は、優秀過ぎる。そろそろ、ハメを外すことも覚えなくてはなるまい」


「ですが、ベル殿。領土を司る者がハメを外すなど、あってはならないことです」


「君主だからといって、完璧である必要はないのだよ。人間は皆、心に弱さを抱えているものだ。大切なのは、正面からそれにぶつかり、乗り越えることなのだよ」






ベルの言葉は、思いがけずしてニールの心に響いた。


(俺の、心の弱さ。それを、ソフィアがこじ開けたということか)


恋とは、恐ろしいものだ。


(正面からぶつかり、乗り越える……)


ニールは口もとを引き結ぶと、じっとリアムに視線を注ぐ。





突如口を閉ざしたニールに気づき、ベルが彼の視線の先を追う。


そして、はっとしたように体を硬直させ、「なんと……」と震える声を出した。
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