冷酷な騎士団長が手放してくれません
違和感を覚えたニールがベルを見れば、老人は皺の刻まれた頬にハラハラと涙を溢していた。


「ベル殿……? どうかなされたのですか?」


驚いたニールは、事の状況を呑み込もうとする。だが、老人が泣いている理由がさっぱり分からない。


「いや、なに」


やがて老人は、目に浮かんだ涙を両掌で拭いながら呟いた。


「旧い友人に、よく似た人がいたものでね……」






老人の声の響きには、真摯な感情が込められていた。


その友人は、彼にとって特別な存在だったのだろう。老いてもなお、思い出して涙を流すほどに。


ベルが、誰を見ていたのかは定かではない。


だがどういうわけか、老人の涙する姿は、ニールの心の奥底に沈んでいつまでも離れなかった。


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