冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ソフィア様。後ろのリボンがほどけかけているんじゃなくて?」


リンデル嬢の言うように、ソフィアのドレスは背後のウエスト部分に細いリボンがあしらわれている。


ソフィアが後ろを向いて確認する前に、「あら、やっぱり。大変だわ」と大仰に口もとを手で覆い、リンデル嬢が背後に回り込んだ。


「すぐに直しますので、お待ちくださいね」


「ありがとうございます……」


リンデル嬢がリボンを直す感触が、ドレス越しに伝わる。


「はい、直りましたわ。それでは、殿下との水入らずのダンスをお楽しみになってくださいませ」


手早く作業を終えると、最後にまたとびきりの笑顔を残し、リンデル嬢はソフィアの傍から離れた。






「ソフィア」


ちょうどそこで、ソフィアを呼ぶ声がする。人ごみを縫いソフィアに歩み寄ったニールが、恭しく頭を下げて手を差し出した。


「最後に、俺と踊ろう」


「はい、殿下」


ソフィアはスカートをつまんで頭を垂れ、ニールの申し出を受け入れる。


ニールに手を伸べられ大広間の中心に向かうと、今宵の主役である二人に、場内から一斉に視線が注がれるのを感じた。


演奏隊が、メヌエットを奏で始める。







ニールの指先がソフィアの指先を絡めとり、腰に据えられたもう片方の手に熱がこもる。


「今夜は、疲れただろう」


「いいえ。とても楽しい夜でした」


「明日は、久々の休みだ。出来れば、一日中君と過ごしたい。芝の上に寝転んで、本でも読もうじゃないか」


穏やかで優しい口調だった。胸にひりひりとした痛みを覚えながらも、「ええ」とソフィアは静かに答える。


「喜んで、そういたします」
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