冷酷な騎士団長が手放してくれません
その声に、ソフィアに伸ばされたニールの手がピクリと止まる。


同時に、ソフィアの体をふわりと温もりが覆った。


見なくても、ソフィアには分かった。彼の醸し出す空気は、この十年いつも近くに感じて来たから。





「ソフィア様、大丈夫です」


うずくまるソフィアを人目から隠すように両手を広げたリアムは、素早く自らの軍服を脱ぎソフィアの背中にかけた。


リアムの温もりを肌で感じ、羞恥心でどうにかなりそうだったソフィアの心に、海のように安堵感が広がっていく。


「リアム、リアム……」


気づけば、目の前にいる騎士の背中に両手を回し、抱きついていた。


「ソフィア様、もう大丈夫ですから」


耳もとにリアムの息を感じ、涙が溢れそうになる。







「どうぞ、これを」


大急ぎでリンネルの布を持って来たのは、ニールの側近であるアダムだった。リアムの軍服だけでは、ソフィアの足もとまでは隠せない。だから、覆うものを用意したのだろう。


アダムはソフィアの足もとに、布を掛けようと手を伸ばす。だが、


「触るな」


肌に触れそうになった途端、薄いシャツ一枚でソフィアを守っているリアムに刃のごとく冷徹な瞳で睨まれる。


アダムは体を竦ませ、怖れおののいたように一歩後退した。


場に、ピリリと緊張が走る。

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