冷酷な騎士団長が手放してくれません
屋根も幌もないこの状態では、引き返すことも先に進むことも出来ない。


身を寄せ合うようにして、雨に打たれながら馬で森を彷徨っていた二人は、やがて粗末な丸太小屋を見つける。


狩猟が盛んになる時期に、森の番人が監視場所として使う小屋だ。小さいながらも、小屋の隣には馬が休める屋根付きの厩舎も備え付けられていた。


「ひとまず、雨が止むまでここで休みましょう」


リアムはそう言うと、そこで馬を止めた。





想像以上に、簡素な丸太小屋だった。木目のテーブルに椅子が一脚、それから毛布とロープしか目立ったものはない。だが、雨風をしのげるだけでも今はありがたかった。


転がっていた燭台の蝋燭にどうにか明かりを灯し、全身びしょ濡れのソフィアが床に座り込み寒さで震えていると、間もなくして馬を厩舎に繋いだリアムが小屋に入って来た。


「ソフィア様、お体は大丈夫ですか?」


リアムはすぐにソフィアのもとへと近づくと、真向かいに座り込み心配そうにソフィアを見つめた。


「大丈夫よ。そんなことより、どうしてリアムはあんなところにいたの……?」


本当は、寒くて凍えそうだった。だが、これ以上リアムの優しさに触れてしまえば、自分を保てなくなってしまう気がした。だから、全力で震えを止めて話を切り替える。


「俺はいつだって、あなたのことを見ています」


リアムは、静かに答えた。


「十年前から、ずっとあなただけを見て来た。それは、今もこの先も同じです」


深いブルーの瞳に射抜かれると、まるで時が止まったかのように動けなくなる。


胸の奥に込み上げてきた熱い何かに、ソフィアは必死で気づかないフリをした。






そこでリアムは、僅かに瞼を伏せる。


「それに、あの男の動向も観察していたので」


「あの男って……アダムのこと? 彼は、一体何者なの? どうして、私の命を狙うの?」


アダムのことを思い出し、ソフィアは恐怖に慄いた。


善人の皮を被り、彼はずっとソフィアの命を狙っていたのだろうか? 考えただけで、身震いがする。


アンザム卿が危篤というのも、おそらくソフィアを陥れるためのでっち上げなのだろう。


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