冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアは、息を呑んだ。ソフィアを見つめるニールの目は、いつになく冷たかった。


それに気づいた瞬間、ソフィアは思う。おそらくニールは、ソフィアへの愛に冷めてしまったのだろうと。


何も答えることが出来ずに、ソフィアは顔を伏せた。


この先どうしたらいいのだろうという想いもあったが、胸の奥底で安堵している自分もいた。


君主としても人間としても完璧な彼を愛せない自分に、身が引き裂かれるような罪悪感を感じていたからだ。






「分かりました……」


王子の命令には、逆らえない。ニールに結婚相手として認められなかった、自分がすべて悪いのだ。両親を悲しませることへのふがいなさだけが、心の奥でくすぶっていた。


「殿下が、そう望むなら……」


するとニールは、一瞬だけ苦しげな顔を見せた。はっとしたソフィアは、引き込まれるように彼の表情を見つめる。だが、ニールはすぐに彼特有の余裕に満ちた笑みを浮かべた。


「それでは、すぐに身支度を始めてくれ。明日、君をリエーヌに送り返すことにしよう」


事務的に告げながら、ニールはソフィアの隣から立ち上がる。


「それから……君に忠実な騎士も一緒にだ」


最後に捨て台詞のようにそう言い残して、ニールは枯葉の目立ちはじめた庭の向こうへと消えて行く。


威厳に満ち堂々としているのに、どことなく寂しげなその背中から、ソフィアはしばらくの間目が離せないでいた。
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