冷酷な騎士団長が手放してくれません
「その目は、オーケーということだね。では、後日正式に招待状を送ろう」


ニールが、形の良い唇をしならせて微笑んだ。


艶かしい視線に、ソフィアの胸が早鐘を打つ。


その時だった。


足もとに妙な引っ掛かりを感じ、同時にホールの天井に描かれた天使の壁画が、くるりと目に入った。


突然のことに、思考が追い付かない。あっと思った時にはもう、ソフィアはドシンという衝撃とともにホールに尻餅をついていた。





クスクスクス……と、貴婦人たちの笑い声が響き渡る。ヒソヒソと笑い合いながら、皆が床に転がるソフィアを嘲るように見ていた。


「まあ、みっともない。お相手の殿下が、お気の毒ですわ」


背後から聴こえた声は、リンデル嬢のものだった。母のマリアも、顔が真っ青だ。


よりにもよって、王子とのダンス中に転ぶだなんて。アンザム家の面汚しにも、ほどがある。





ニールが歩み寄り、「立てるか?」とソフィアに手を差し伸べようとした。


だが寸手のところで、二人の間を遮るものがいた。あっという間にソフィアのもとに駆けつけた、リアムだ。


「ソフィア様」


「リアム……」


伸ばされたソフィアの右手を取り、リアムは優しく引き上げた。


「足がもつれてしまったようだね。構わない。さあ、続きを踊ろう」


ソフィアの失態など一切気にせぬ様子でニールが手を差し出すが、ソフィアは狼狽えた。


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