冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアは肩に掛けていた大判の水色のショールを頭から被り、目立たないように娘たちの背後に紛れた。


きゃっきゃと色めき立っている娘たちは、汗を散らしながら剣を振りかざす若い騎士たちに夢中で、ソフィアの存在には気づいていないようだった。


「見て、リアム様よ」


誰かの声に、ソフィアはピクリと反応する。


「ああ、今日もなんて見目麗しいの」


「ダンテ様と決闘なさるようね」






娘たちの言うように、訓練に励む騎士たちの中ほどで、リアムとダンテが向かい合っていた。


リアムは、黒衣の団服を脱いだシャツ一枚という出で立ちだ。暑いのか、ボタンが外され白い胸板が覗いている。


剣を構えたリアムは、鋭い瞳でダンテを見据え、じりじりと間合いを詰めているところだった。





リアムの剣が、空を切る。


疾風に煽られ、金色の髪が揺れた。


キン、という威勢のいい音を響かせ、重なり合うリアムとダンテの剣。


額に汗を滲ませたリアムは一つ息を吐くと、剣を振り払い、身を翻した。







ソフィアは無言のまま、じっとリアムを見つめる。


剣を振り上げる腕は力強く、動きは華麗で、瞳は時折猛獣のように猟奇的に変化する。


(あんなに、たくましかったかしら……)


数日会わなかっただけで、リアムを遠くに感じた。


奇妙な寂しさが込み上げてくる。





「ああ、本当にお美しい。おまけに、何てお強いの。あんなお方が恋人だったら、どんなに素敵でしょう」


娘の一人が、うっとりと語った。


(リアムは美しくて強いだけじゃない)


リアムには、内に秘めた優しさと聡明さがある。


だから、若くして騎士団長にまで昇りつめることが出来たのだ。


いつしかソフィアは、幼い頃の出来事を思い出していた。
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