冷酷な騎士団長が手放してくれません
ロイセン王国とハイネル公国の関係悪化に伴い、騎士団の訓練も苛酷になっていた。


騎士団長であるリアムは以前に比べて自由が効かなくなり、ソフィアのもとに駆け付ける頻度も減っていた。


そのため、カダール公国での文芸サロンのあと、ソフィアはまだ一度もリアムに会えていない。


ニールからの婚約申し込みを伝えられた日の午後、ソフィアはさっそくリアムを探したが、騎士団は湖の向こうにある草原地帯で訓練中とのことだった。


リアムに会いたい気持ちを抑えきれなくなっていたソフィアは、厩からこっそりお気に入りの白馬を拝借し、馬を走らせ騎士団のいる草原へと向かった。






緑豊かなリルべには、至るところに広野が広がる。だから、本番さながらの訓練場にも困らない。


湖を超えた先で、ソフィアはやがて剣を振りかざし稽古に励む騎士たちを見つける。


黒の上着にブルーのズボンの団服に身を包んだ騎士たちが、掛け声を上げながら青々とした芝生の上で剣を振りかざしていた。


アンザム卿配下の騎士団は、総勢百名にも満たない小隊だ。


もとは護衛のために、血気盛んな若者を募っただけだったので、戦力は期待されていなかった。


だが十年前にダンテが入団し、リアムが頭角を表し始めたころからみるみる力をつけ、今ではロイセン王国の中でも一二を争う実力があると云われている。





ソフィアは木に白馬を繋ぐと、訓練中の騎士団の方へと近寄る。団員達は今は二人ずつのペアを組み、剣の腕を競い合っていた。


そんな騎士団を、岩陰から数人の娘たちが眺めている。生成りの頭巾を被った彼女たちは、おそらくこの辺りの民家の娘だろう。


騎士は、庶民の娘に人気がある。農民や商人よりも騎士と結婚する方が、箔が付くからだ。
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