冷酷な騎士団長が手放してくれません
騎士団の訓練が終わると同時に、リアムはソフィアをいつもの湖畔に連れて行ってくれた。


草原に座り、二人で澄んだ湖を見つめる。


真昼の日差しが水面を照りつけ、キラキラと輝かせている。黄金色の光の中で、二匹のトンボが戯れながら飛んでいた。









「カダール公国のニール王子に、婚約を申し込まれたの」


そう告げれば、微かに体を揺らしたあとで、リアムがこちらを向く気配がした。


前を向いたまま、ソフィアは言葉を続ける。


「でも、お受けしようかどうか迷っているの」


長い、沈黙が訪れた。風に水面が流れる音だけが、サラサラと漂う。


「なぜですか?」


「怖いの、彼が」


「怖い?」


「彼の手が私の肌に触れただけで、逃げたくなるの」


「肌に、触れる……?」


リアムの方を向けば、自分を凝視している青い瞳と目が合う。


整った顔立ちのせいか、リアムが真顔になると凄味が増す。


「こうして額を滑って、頬を落ち、首筋、そして鎖骨の下……。そうやって、順に触られたわ。触られている間、ずっと逃げ出したかった。そんな気持ちで、結婚なんて出来る?」


リアムは、何も答えなかった。


その代わり、僅かに瞳を伏せたあと、そっと手を伸ばしてくる。


リアムの指先が、ソフィアの額に触れた。


そして手の甲で頬を撫でると、首筋を這い、鎖骨に触れる。


ソフィアは、目を閉じた。


ニールに触れられた時とは違う。


真綿にくるまれたように、心地がよい。





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