冷酷な騎士団長が手放してくれません
辺境であるリルべと、隣国カダール公国には切っても切れない縁がある。


それなのに、失礼に値することを承知で、ソフィアはニール王子にいまだ婚約の申し入れの返事をしていない。


ソフィアの前ではそんな素振りは見せなかったが、父であるアンザム卿の心労は、計り知れないものだっただろう。


「ご主人様はソフィア様を自由にしてくださっていますが、本当は誰よりもソフィア様の結婚を心待ちにしておられるのです」


追い打ちをかけるように、アーニャが言った。







ソフィアは、震える口もとを押さえた。


自分がどれほど身勝手で軽率な行動をとっていたのか、思い知ったからだ。


男が怖い。


そんな浅はかな理由で、これ以上ない良縁から目を背けていた自分。


貴族の娘にとって、顔も知らない相手との政略結婚は当たり前のことだ。


多くの令嬢が生家を守るため、自分の気持ちに蓋をし、好きでもない男のところに嫁いでいく。


そんな世界に身を置きながら、自分はなんとあさましい考えを持っていたのか。


結果として、大好きなお父様に苦しい想いをさせてしまった。







椅子に座ったまま、ソフィアはハラハラと涙を流した。


(お父様を苦しませたままお別れだなんて、絶対に嫌だわ)


「ソフィア様……」


神妙な顔をしたアーニャが、泣いているソフィアの肩をそっと撫でてくれた。


「決めたわ、アーニャ。私、ニール王子の婚約をお受けする」


ソフィアの凛とした声が、静かな空間に落ちる。


ピンと背筋を伸ばし宙を見据えるソフィアに、もう迷いはなかった。



< 63 / 191 >

この作品をシェア

pagetop