冷酷な騎士団長が手放してくれません
母のマリアは、ニール王子との婚約を受けるとのソフィアの返事を聞くなり、泣いて喜んだ。


「ありがとう、ソフィア」


夫であるアンザム辺境伯の病を知り、見るからに憔悴しきっていたマリアは、ソフィアを何度もきつく抱きしめた。


母の温もりを肌で感じながら、ソフィアは自分の決断が正しかったことを実感する。


「お母様、ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした」


「分かってくれればいいのよ。お父様も、喜んでくれますわ」








容態は回復したものの、しばらくの間医者に安静を言い渡されているアンザム卿は、まだ自室のベッドに横になっていた。


「おお、ソフィア」


ソフィアが部屋を訪れれば、やつれた顔でアンザム卿は笑って見せた。


「お父様、お加減はいかがですか?」


「なに、少し疲れが溜まっていただけだ」


自分が重い病を患っているという真実を、もう家中の人間が知っていることは、彼も薄々勘付いているだろう。


それでも虚勢を張る父に、愛おしさが込み上げる。


「お父様。私、ニール王子と結婚することを決めました」








歯切れよく伝えると、アンザム卿はやや驚いたように目を見開いた。


喜び半分、戸惑い半分、といった顔である。


ソフィアは、首を傾げた。


「お父様。喜んでは、くださらないのですか?」


するとアンザム卿は、慌てたように目もとを細めた。


「いや、もちろん嬉しいよ。これほど嬉しいことはない。ただ……」


「ただ?」


「お前は、リアムに想いを寄せているのかと思っていたから」
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