愛される自信をキミにあげる
ラストエピソード


「えっ、えっ……なにっ、どういうことですかっ!? 三条課長っ!」
「あれ、英臣さんって呼んでくれないの?」
「いや、だって……」
 それどころじゃないっていうのが、あたしの正直な気持ち。
 だって、ここは会社である結婚式場の新婦控え室。
 あたしがなんでこんなに慌ててるかって、別に何か失敗したってわけではない。
 普通にいつもどおり出社したら、別の部署である三条課長に呼ばれて困り顔でいると、どうやら上司も知っているみたいで、行けと目配せされた。
 何だろうって後をついて行くと、着いた先は人気のスカイチャペルがある屋上階の新婦控え室だった。
 数人のスタッフに無理やり服を脱がされて、三条課長は部屋を出て行ってしまったんだ。
 あたしの服を綺麗に畳んでくれているスタッフも何やら複雑そうな表情だ。
 一体どういうことと不安に思いながら部屋の中を見回すと、壁に掛けられた見慣れた純白のドレス。
 このドレスに身を包んだ新婦を一体何人見ただろう。
 どうかずっとお幸せに、思うのは毎回同じこと。
 あたしもいつか、なんて夢だったけれど。
 気づけば、ウェディングドレスに着替えさせられていた。
「なんで……?」
「新郎がお待ちですよ」
 皮肉めいて聞こえるのは気のせい?
 あたしは、真っ白のヒールを履いてスタッフの腕を掴む。
 新婦を案内するときに立つ、チャペルの両扉の前。
 いつも進行の説明をし、新婦のドレスやベールを直しながら、そっと脇に立っているその場所だ。
「笑留」
「えっ!? お父さんっ!?」
 なんでスーツに身を包んだお父さんがここにいて、あたしの隣に立っているのかって。
 いくら何でももう気づく。
 こういう悪戯めいたことをするのは、三条課長以外にいない。
 聞き慣れたアメージンググレイスが流れ始めれば、引き返すことなんてできるはずがなかった。
 スタッフの手で両扉が開けられて、祝福の拍手に包まれた。
 一面はめ込みガラスのスカイチャペルは、まさしく天空のウェディングだ。
 左側に新婦の親族、右側に新郎の親族という決まりだけれど、両側は見知らぬ人ばかり。
 式場を見学に来たお客様だろう。
 その中に混じってお母さんまでいるんだから、一体いつこんな打ち合わせがされたんだと驚く他ない。
 ゆったりした音楽に合わせて、あたしは一歩ずつ足を進める。
 いつもこんな想いで新婦はバージンロードを歩いていたんだって、少しだけわかった。
 お母さんの後ろの席に麗がいた。
 その表情は安堵と幸せに満ちていて、あたしはよかったと胸をなで下ろす。
 三条課長はもう大丈夫だと言っていたけれど、麗とまだ直接話はできていなかったから。
 そして、麗の口元がゆっくりと動き、オルガンとハープの生演奏に混じって言葉がかけられた。
「おめでとう」
 もうお母さんも泣いてるし、模擬挙式なんだから。
 声を出さないように必死に涙を抑えてるお父さんの腕から、あたしはそっと手を離した。
 三条課長と目が合って、何してるんですかって睨んだつもりだった。
 けど、本当に心の底から嬉しそうに微笑まれてしまえば、あたしまで嬉しくなってきてしまう。
「笑留に似合うドレス、ずっと探してたんだ。思ったとおり、綺麗だよ」
 賛美歌を斉唱している間、三条課長が声を潜めて言った。
 そして誓いの言葉が交わされる。
 ここで働いているあたしからしたら、耳慣れた言葉。
 それが特別なものに感じる。
「それでは誓いのキスを」
 あたしのベールが上げられる。
 三条課長の顔が近づいてきて唇が重なった。
 模擬挙式なんだから、誓いのキスはフリでいいはずだ。
 けれど、しっかりと隙間ないほどに唇が塞がれる。
 ちょっと長すぎない?
 甘すぎるあたしたちの雰囲気に周りがざわつき始めると、三条課長の唇が離れていった。
「今更だけどさ」
 騒めきに乗じた三条課長が、あたしの耳元に唇を寄せて囁いた。
 しかし、音が響くように作られているチャペルでは、意外にも話し声は響く。
 お客様は式の続きが始まったのだと思ったのだろう。
 すぐにざわつきは収まった。
「はい」
「俺と結婚してほしい」
 こんなところで公開プロポーズされるとは思わずに息を呑んだ。
 きっと今あたしの顔は真っ赤に染まっているだろう。
 参列席からピューっと口笛が聞こえてきた。
「あたしでいいんですか?」
「キミがいいんだよ」
 頬を伝う涙が拭われる。
 チャペルは盛大な拍手に包まれれた。
 この後は誓約書にサインしなければならない。
 神父役のスタッフが困っているのに、もう一度三条課長の顔が近づいて、あたしは仕事なのも忘れて彼の背中に腕を回していた。
 あとは帰ってからにしなさいと麗から言葉がかけられるまで、三条課長とのキスは続いた。
「愛してます」
 彼からもらったたくさんの愛を、今度はあたしが返す番だ。

fin

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