恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
壮介さんは、私が来ても、わざとらしく翔と「話」を続けていた。
実際には翔だけが話していて、主人が息子の話を聞いていたのだけれど・・私が来たのが分かっているくせに、わざと私の方を見ないで、翔の話を聞くことに集中している「フリ」をしていた。

今は翔の話を聞くことが先。おまえのことは後回し。
と、背中から発する雰囲気で、私に伝えようとしているのか。
とにかく、そうすることで私の存在を無視している。
それが、私に対する壮介さんなりの罰し方の一つというか・・私の言い分をまともに聞こうともしない。
いや、妻に関心を向けることにエネルギーを注ぐことを、とっくの昔に止めている主人らしい態度を貫いている。
長い間「妻」という存在を軽んじている、いかにも主人らしいふるまいだ。

でも、それからすぐに翔の話が終わったので、壮介さんは、私の存在を今思い出したかのように――でも「仕方ない」という態度丸出しで――やっと私の方を見た。
< 295 / 483 >

この作品をシェア

pagetop