ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「夕羽ちゃんが大好きだ。どうしたらこの気持ちをわかってもらえる? 伝えきれないほどに愛してる!」

「うん。ものすごく伝わってるから、そのへんは大丈夫。早く支度しないと遅刻するよ。まずは食べようか」


帰国してからというもの、タガが外れたかのようにいつも情熱的に想いを表してくれる彼に対し、私はこんなふうに淡白な受け答えしかできずにいる。

だってね、照れるじゃない。

顔は熱く、胸はちゃんと高鳴っていても、恥ずかしがらずに『私も愛してるわ!』と抱き合えるほど、恋愛慣れしていないのだ。

申し訳ないが許してほしい。


愛情たっぷりの香ばしい朝食を取り、着替えにメイクと支度を終えると、時刻は八時四十分。

始業は九時と定められており、それは社長である良樹も基本的に同じである。

ただ彼の場合、その日のスケジュールに合わせて遅らせることも多々あるのだが、今朝は基本通りということで、お迎えの三門家の高級車に私を同乗させてくれた。


後部席の彼の右隣に座り、黒塗りの車がマンションの駐車場から動き出すや否や、私のスマホが震えた。

ショルダーバッグから取り出して確認すると、それはもっくんからのメールの着信で、こんな文面であった。

【朝っぱらからごめんな。明後日の日曜のさゆりちゃんのコンサート、仕事で行けなくなっちまって。夕羽ちゃん代わりに行かないかい? チケットはタダであげるよ】


もっくんは、石川さゆりのファンクラブに入っている。

大ファンのはずなのに、仕事とは気の毒に。

七十を過ぎても現役でバリバリと働いているのは素晴らしいと思うけど、コンサートに行けないほどに忙しいと言われたら、体は大丈夫だろうかと心配になる。

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