ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
そこでやっと、彼が朝食を作ると宣言したことを思い出した。


「夕羽ちゃん、おはよう。これ、食べられるかな……?」

「おはよ。焦げてない部分を選べば、なんとか食べられる……かも」


彼が私のために初めて作ってくれた料理は、目玉焼きとベーコンとキャベツの炒め物。

香ばしすぎて箸をつけるのがためらわれる代物が、フライパンの中で燻っていた。

ちょっとしたレストランの厨房ほどはある広くて立派なキッチンスペースは、どうしたらここまで散らかせるのかと問いたくなる状況だ。


彼がコンロを使用することは滅多にない。

昼と夜は外食か豪華なセレブ弁当。朝食はシリアルやトーストと、自炊経験は皆無に等しい生活を送ってきたそうだ。

お坊っちゃまだから、それは仕方ないだろう。

ちなみに掃除は週に二回来る業者がやるので、家事全般なにもできない男である。


そんな彼が、朝は和食を好む私に合わせて、無理して料理をしてくれたのは素直に嬉しい。

どんなにひどい有様でも、心は温かく感謝の気持ちが湧いてくる。


「夕羽ちゃん、ごめん……」としょぼくれる大きな背中をぎゅっと抱きしめて、「ありがとう」とお礼を言う。

「良樹の気持ちが嬉しいよ。次はちゃんと起きるから、一緒に作ってみよう」と励ませば、一度腕を解かれて、真正面から強く抱きしめられた。

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