ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
心配するなと言われても、咳込んでいる姿を目の当たりにすれば、私の顔は曇る。

小四のあの夏休み、彼は喘息治療の目的で空気のいい離島に滞在していた。

そういえば、咳をしながら『今日は遊べない』と断られたことが何日かあった気もする。

一時的とはいえ、大人になっても苦しむ夜があるとは可哀想に。

少しも忙しくない私が、その苦しみを代わってあげられたらいいのに……。


今日は日本酒をひとりで楽しむ気になれず、零時過ぎに二階の私の部屋の、折りたたみ式ベッドに横になる。

咳込んで私を起こしたくないからと良樹に言われ、今日は別々に寝ることになった。

半月ほど前までは、これが当たり前だったはずなのに、今は隣に温もりがないことを寂しく思う。

安物のこのマットレスは、こんなにも固かっただろうかと、寝づらさを感じていた。


寝返りを打ちながら気にするのは、彼のこと。

ちゃんと眠れているだろうか。苦しがっていないかな……。

そう考えていると目が冴えてしまう。

駄目だ。気になって眠れない……。


部屋を出た私は、足音を忍ばせて階段を下り、彼の寝室の前へ。

するとケホケホと咳が聞こえ、ドアに耳をつければ、ゴソゴソと身を起こしたような音と、シュッと吸入薬を吹きつけたような音も微かに聞き取れた。

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