ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
そうは言っても、今、あちこちから特殊ネジの発注が来て、手一杯な状況は変わらない。

そこでもっくんは、今年の三月で退職した元従業員ふたりに電話をかけてくれた。

その人たちはもっくんより年上のおじいさんらしいけど、『帝重工の仕事だけだというなら、もう一丁頑張ってみるか』と痛む腰を上げてくれるそうで、ありがたい話であった。


聞けば、特殊ネジは誰もが簡単に作れるものではなく、熟練した職人技が必要なのだとか。

だから工場の規模を拡大して大量生産とはいかず、『俺が動けるうちに、もっと若い技術者を育てにゃならん』ともっくんは困り顔で話してくれた。


今度はそれに協力したいと言ったのは良樹で、帝重工の資金力をもって、技術者を育てるという育成プロジェクトを立ち上げる話に発展した。

大企業と町工場の相互の協力関係……いいね、素敵じゃないか。


良樹ともっくんの仕事がうまくいき、私の手の中には明日のコンサートチケットがある。

図らずもふたりが対面したことで、今後、良樹がやきもちを焼くことはないだろうし、万事が丸く収まり万々歳だ。


「よかった、よかった」と独り言を呟いて、今夜の酒は旨そうだと考えていた。

昨夜のカレーライスじゃつまみにはならないから、なにか買って帰ろうか。
< 136 / 204 >

この作品をシェア

pagetop