ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
それは社長へのごますりであったり、私に取り入ろうとする狙いではなく、もっと純粋な興味のようだ。

美人でも優秀でもお嬢様でもない私が、どうして三門家の御曹司に見初められて、どんな交際をしているのかと、そこが気になって仕方ないみたい。


他の部署でもそうだったように、私を囲う人たちが矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。

「ちょっと聞いてもいいかな。社長になんて言われて交際が始まったの?」と単刀直入に切り込んできたのは、おじさん社員。

「あ、私もそれを知りたいです! どんなシチュエーションかも教えてください」とすかさず関連項目の質問を追加したのは、若い女子社員だ。


「シチュエーションと言われても……」と困り顔になりながらも、私は真面目に正直に、少々ごまかしつつ返事をする。


「引越しの夜、自宅で普通に飲んでただけです。告白の言葉もたぶん普通ですよ。酔ってたからよく覚えてないんですけどね。ほい、コピー用紙の補充はお終い。次は文具を……」


コピー機のそばを離れ、別の壁際に置かれたスチール書棚の引き戸を開け、ボールペンやクリアファイル、ステープラーの替え芯やクリップなどの残量を確かめ、定量になるように補充していく。

私が動けば十五人もぞろぞろとついてきて、囲み取材はまだ終わらない。


「おふたりは、なんと呼び合ってるんですか?」

「普通に下の名前ですよ」

「行ってきますとただいまのチューとかも、しちゃうんですか?」

「いやいや、そんなアメリカンなことはしないです。朝はバタバタしてるし、夜は『お帰り。一杯どう?』って感じです」

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