ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
興奮気味な質問に淡々と答えつつ、庶務の単純な仕事を完遂した私は、「よし、補充完了」と大きな独り言を口にして立ち上がった。

さあ、逃げ出そう。

そう思ったのだが、出口への道には若い女子社員が立ち塞がっていて、その子がなぜか私に腕を絡ませてくる。

綿菓子みたいなフワフワとした雰囲気の彼女は、男なら即ハートを射抜かれそうな極上スマイルを浮かべて、私を誘惑しようとする。


「浜野さん、あちらの応接ソファで少し休憩なさってください。今、お茶をお出しします」

「へ? いえいえ、お気遣いなく。といいますか、私は客じゃありませんし、皆さんが働いている時に呑気にお茶を飲んでいてはーー」


「ほんの十分くらい平気ですよ」と可愛い顔して強引な彼女は、「ね、部長?」と同意を求めるように肩越しに振り返った。

つられて私も後ろを見れば、そこには小太りで背の低い、定年間近の事業部の部長が立っている。


『この質問攻め軍団の中に、部長まで交ざっていたのかい!』とツッコミそうになったら、朗らかな笑顔の部長が「茶菓子もあるよ」とスーツのポケットから、栗もなかを取り出して私にくれた。

どうしよう。もう、なにから指摘していいのかわからない……。
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