ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
良樹が過剰に甘えてくる場合は大抵、仕事上で面白くない展開に陥っている。

もっくんの時のように、奇跡的に私が問題を解決することは二度とないだろうけど、話ぐらいは聞いてあげられる。


すると良樹は伊達眼鏡を外してテーブルに置き、今にも泣きそうに顔を曇らせるから、これはただ事ではないと察して、緊張が走った。


「な、なんの問題を抱えてるのかな? 他言できない話なら、無理しなくてもいいけど、目を潤ませるほどに大変なのかどうかは、教えてほしいな……」


恐る恐る問いかければ、良樹はあぐらをかいた膝の上に深いため息を落とす。

それから俯いたままで、ボソボソと打ち明けた。


「急な出張が入ったんだ。二泊三日で九州に。土曜の昼過ぎまで帰れない。ふた晩も夕羽ちゃんを抱けないなんて……喘息発作が起きそうだ」


本気で心配して馬鹿を見たと呆れ、私は手酌で自分の湯飲み茶碗に酒を足す。

「そりゃつらいね。吸入薬持って行ってきな。ご苦労さん」と適当な返しをしてカニシュウマイをもうひとつ口に入れたら、頬を大きな両手で挟まれ、無理やり顔を彼の方に向けさせられる。

噛まないままのシュウマイが口から飛び出しそうになって慌てる私に、良樹は眉間に深い皺を刻み、「夕羽ちゃんも、俺と同じくらいに寂しがってよ!」と不満をぶつけてきた。

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