ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
良樹の名前も聞いてないし、どこの誰だかわからない男に、娘を取られてもいいというのかい?

ヘリの縄梯子に掴まって、凍りそうになりながら飛んできた奇妙な奴だよ?

そりゃ、裏鍋山は魅力的で私も飲みたい。

悔しいな。お猪口一杯だけでいいから、味見させてくれないかな……。


父の腕の中の酒瓶を羨ましげに見つめていたら、良樹の腕が私の肩に回されて、俺のものだとばかりに引き寄せられる。

視線を合わせれば涼しげな瞳を弓なりに細め、嬉しそうな顔をした彼が私の額に軽いキスを落とす。

そのキスで幻の銘酒への未練は嘘のように消えてなくなり、私の胸には温かで幸せな思いが広がっていった。


良樹が愛してくれるなら、それだけで心は満ち足りて、他にはなにもいらないよ。

さあ、東京に帰ろうか。

明日の漁を終えてからと思っていたけど、酒を奪われると恐れる父に今すぐ帰れと言われたことだし、問題ないだろう。


それに、早くふたりの家に帰りたかった。

ここだと彼の情熱的な愛情を、心ゆくまで受け止めることができないから。


良樹の肩にもたれかかり、橙色の凪いだ海を見つめれば、五木様の名曲『契り』が頭に流れてきた。

あの歌詞のように、愛する彼へのこの想いを大切に膨らませ、永遠であれと願っていた。


【完】
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