ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
それを聞いて、なるほどと私は頷いた。

あの夏休みは彼にとって相当に楽しかったようだから、きっと東京に戻っても島や私のことばかり話していたのだろう。

それがおそらく彼の母親を不安にさせたのだ。

島に建てられた洋館に滞在していたのは、彼と黒服の執事のようなおじさんと、使用人風の男女が数人で、親はいなかった。

黒服のおじさんは彼の母親に、坊ちゃんにまとわりつく害虫がいたとでも、私のことを報告したのだろう。

それで彼の母親は、早く私のことを忘れさせなければと焦ったに違いない。


手紙については、私は受け取っていない。

『出しておきますよ、お坊ちゃま』と手紙を預かった使用人が母親に渡し、捨てられたのかもしれない。

私に随分と懐いていたよっしーだから、死んだと聞かされて、大泣きしたことだろう。


「そうだったんだ。それはつらかったね……」


さっきまで若干後ろ向きに動いていた気持ちは、彼への同情と好意的な温かい思いに変えられて、この胸に広がる。

私と過ごしたひと夏が、今でも彼の中でキラキラと輝いているのは、ロマンチックで素敵だ。

そんなにも恋しがってくれたとは、もしかして私は、よっしーの初恋相手なのかもしれない。

くすぐったいけど、嬉しいよ。いきなり胸をボインボインしたことは忘れてあげよう。


「こうして再会できたことに、運命的なものを感じるね。私もまた会えて嬉しいよ!」


そう言って満面の笑みを向ければ、花が咲いたように彼の顔がパッと明るくなった。

それには見覚えがある。
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