ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
よっしーが私を呼び出す理由は、懐かしい昔話がしたいためなのだろう。

そのためにまだ使える電球一個を彼が外してから、電球交換を口実に私を呼ぶのだ。

会いたいと思ってくれるその気持ちは嬉しく、非常に怒りにくいけれど、今日あたり、そろそろいい加減にしてくれと言わなければ、私が困ることになる。


廊下の角を曲がって直進し、社長室のドアを叩くと、電子錠が解錠された音がして、すぐに内側から開いた。

開けてくれたのは社長自らで、彼はまだ偽りの鬼の面を被っている。

眼鏡の奥の眼光は鋭く、近くに誰か他の人がいないかと廊下に素早く視線を配り、それから「入れ」と私を中に入れた。


「まいどおおきに。電気屋です」と適当な挨拶をしてズカズカと入り込んだ私は、部屋の中央にあるミーティングテーブルの横で脚立を下ろした。

後ろにはドアの閉められた音が聞こえ、その直後に「夕羽ちゃん!」と弾む声がして、背中にドスンと飛びつかれたような衝撃を受けた。

「うわっ!」と驚きの声をあげたら、逞しい二本の腕に背中から力一杯抱きしめられて、耳元に嬉しそうな声を聞く。


「ああ、夕羽ちゃんだ。ものすごく会いたかったから、こうして抱きしめるのが随分と久しぶりに感じられるよ」


なにを言っているのかと呆れながらも、「そうだね」と淡々とした調子で同意してあげる。


「昨日も大体この時間に呼び出されたから、二十四時間ぶりだね。よっしー、久しぶり」
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