名前のない星
いつも未菜の目は恋をしていた。


未菜の赤い鼻の頭や買ったばかりのネルシャツ、よく見ていたからわかる。


迷惑そうに俺に向ける目にさえ俺は戸惑った。


きっとすでに意識はものすごく遠くにあったのだ。そういう顔をしている未菜は見ていて切なくなったからだ。


声をかけても何をしても未菜のその意識の中には俺何かが入れるはず、は、当たり前だけど無い。


だからこの町のちょっと色づいたイルミネーションも流されてしまったように見えた。


ボールペンは時々手帳から外されて、未菜の手にあった。中身は普通のボールペンだった。


普通のボールペンなのにやはりそれを見つければちょっと切なくなった。


誤魔化すみたいにまたわざとらしく俺が笑えば、俺が気づかないうちに未菜はまた無視して意識だけ遠くに行った。


俺はちゃんと未菜の気持ちは知らなかったのだろうけれど、そういう気持ちになるのはなんとなく理解していた。


それは好きな人に迷惑そうな顔をいくらされても、笑い返せる不思議な力のことだ。


一番はじめ恋をしている未菜の目を俺はわけのわからないまま気になって声をかけた。


ただ切ない感じがとても未菜には変に似合っていたからなのかもしれない。


だからそうやって単純に憧れた。


自分は本当に頭が悪いから、難しいことを考えたわけではなかったのだ。


それでも恋をしているのは俺も一緒だったから、もしかしたら未菜からそういう気持ちは移ってきたのかも、と思う。








秋の終わりに俺は不意に未菜を連れ出した。


俺の家の近くに田舎道があって、ただ農道が舗装されただけのその道は夜、車一つ通らない。


いつもすごく真っ暗で、その年に来るという流星群というのを見るのに、そこなら何だか見ることが出来る気がしたのだ。


真っ暗なそこは明らかに冬の真ん中に向かう風が吹いていた。


スマホと財布だけを持って外に出ようとしても、寒いから、と未菜は嫌がっていた。


何とかあたたかいジャケットを被せて玄関から少し歩けば、壊れた街頭のせいでひとつも明るくなど無く、小さなバス停が見えた。


運行する本数が少なくて、普段から乗ることはあまり無い。


しばらくして、ほんとに、これ見えんの。と未菜は言って俺も確かにそうだなと思い始める。



真っ暗なのだ、車のライトさえ俺らを照らしたりしない。


あたりが変わりないままだったせいで少し浮かれていた気分が沈み、バス停の屋根の無いあ背もたれもないベンチに腰をかけた。


ねぇこれ見えんの、また未菜はそうやって俺の横で言って、なんか食いもん持ってくればよかったと俺は考えながら、別に俺らはそういうものを見る、なんてことはそもそも柄ではなかった。


もう来てしまったあとにそんなことを思った。


相変わらず真っ暗な夜の中で、あたりの星がまばら、変わりない。



< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop