天使は金の瞳で毒を盛る
傷心の誘惑者
いつのまにか眠っていて、起きたら榛瑠のベットの中にいた。もう、すっかり日が高くなっている。

今日は服着たままだし。どういう判断なんだろう。別にね、がっかりしてるとかそういうことではないのよ、うん。

それを聞こうにも、家には誰もいなかった。

テーブルの上にサンドイッチとメモが残してある。用事があるから出かける、という簡潔なものだった。あと、鍵もあった。

私は飲み物を冷蔵庫から勝手にだしてサンドイッチを食べた。

用事ってなによ。

仕事かな。仕事だよね。接待ゴルフとか。たまにお父様に連れて行かれてるの知ってるし。平日の夜も接待とかに同席させられたり。

お父様もそんなに連れまわすなら、はじめから秘書課にでも入れればいいのよ。そうすれば本来の仕事になるから、彼の全体の仕事量は減るだろうに。

…紹介したいのかな、いろいろと。…どうする気なんだろう。本当に後継にする気だろうか。私はそろそろはっきりしないといけないのだろうか。

つい、ため息がでてしまう。

っていうか、ただ単に出かけただけかも。デートとか?

その自分の考えになんかムカッとくる。だいたい普通こういう日って家にいるものじゃない?仕事なら仕事ってわかるように書いておいてよね。

榛瑠はいつもそう。なに考えてるかわからない。

外は良い天気で明るい陽の光が大きな窓から降り注いでいて眩しいくらいだった。

サンドイッチはとても美味しい。

またため息が出る。

近づいたと思ったら離れて行く。子供の時はもっともっと近かったのに。

二人でずっと庭の木の下で遊んでいた。あの親密さが、温かさが懐かしい。いつから違ってしまったのだろう。

…食べたら鍵をして帰ろう。この鍵持ってていいって書いてある。

いないくせに、こういう事はする。

…どうせならずっと近くにいてよ。

ずっと。二度とどこかにいかないでよ。

でも、もし彼にそう言って、いいよって言われても、信じないだろうなあ、私。
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