突然現れた御曹司は婚約者
美味しいものを例えるとき、『ほっぺが落ちるような』と言うけれど、マスターの作るオムライスはまさにそれ。


「幸せ」


自然と出た言葉に牧田くんが呆れたように笑った。


「鰹じゃなくても良かったんじゃん」
「鰹が食べたいなんて言ってないよ」


一応、否定してみるけど、そこはやはり知らない人には何のことだか分からないようで、首を傾げられてしまった。


「ごめん。なんでもない。それよりカレー食べて。冷めちゃうから」


話題を変えるつもりでカレー皿を指差す。

でも牧田くんは、言葉を濁したことが気になるのか横目でちらちら私を見やりながらカレーを口に運ぶ。


「そんな風に食べてたらこぼすよ」


注意した直後、スプーンに乗せていたカツが机の上に落ちた。


「あぁ、ほら言わんこっちゃない。もう。もったいないなぁ」


はねたカレーがワイシャツの鳩尾辺りに飛んでるし。


「ちょっとそのままでいて」


カレーのシミは最初が肝心。

スプーンなどが入った竹製のカトラリーケースからウエットティッシュを取り、点々と黄色く染みている場所を叩くようにして拭いていく。


「うーん、だいぶいいけど、やっぱり落ちきらないね」


カレーは手強い。

ネクタイに飛んだのなら今すぐ外して洗ってあげられるけど、シャツでは脱がすわけにはいかないし。
< 3 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop