突然現れた御曹司は婚約者
いつもはネクタイを外すことを面倒くさがるくせに、こういうときに限って外してる牧田くんの行動が恨めしいったらありゃしない。


「もう少し叩いてみるけど、家に帰ったら食器用の洗剤で洗ってみて。それから洗濯用洗剤を直につけて…」
「って、ちょっと、栞」


シミ抜きに夢中になっている私の名前をそれまで黙ってパスタを食べていた寧々が呼んだ。


「なに?」


視線はそのままシミを叩く手に据え置き、口だけで答える。


「なにって…」


寧々が笑いを堪えるような声で言うものだから、仕方なく屈んでいた体を起こし、寧々に顔を向ける。


「自分の目で見てみなよ」


笑う口を手で押さえ、反対の手で牧田くんを指差す寧々を見て、なんなの?って思う。

今はカレーのシミを残らないようにすることが先決なのに。

それでもしつこく『見ろ』と指しているので、その視線の先を追う。

すると顔を真っ赤にしている牧田くんが目に飛び込んできた。


「ま、牧田くん、大丈夫?」


熱でもあるのかと心配して額に手を当ててみる。

でも、発熱してる感じではない。


「これから熱が出るのかな?」
「いや…これは違うから」


牧田くんは私から顔を背けた。


「でも赤いよ。ね?」


同意を得るために寧々の方を向くも、寧々はまだ笑っている。


「なんで笑ってるの?」
「だって栞、鈍感なんだもん。それに牧田くんも。その様子だと自覚あるでしょ?」


その言葉を受けた牧田くんは唇を噛み締め、後頭部を掻いてから寧々に小さく頷いた。
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