突然現れた御曹司は婚約者
うーん。
なんでこの人はこういう言い方しか出来ないのだろう。


「指図すんな!」


牧田くんの怒りの火に油を注いじゃっているじゃないか。

そっぽ向いて座っちゃったし。


「はぁ…」


訳の分からない、収拾不能な状況に小さなため息が出てしまう。

それに目の前の男性が目ざとく反応した。


「疲れているのか?」
「そう、ですね」


疲れの原因はあなたです、とは言えないけど無視するわけにもいかず、一応答える。

すると男性はスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけはじめた。


「…俺だ。エステの予約を。女性一名。時間は…何時がいい?」


こっちを見てるということは、私に聞いてるのだろうか。

でもエステなんて初対面の私に話す内容とは考え難い。

だからなにも答えずにいたのに、しびれを切らした彼はスマートフォンを口元から離し、私に向けて言葉を発した。


「何時なら空いているのかと聞いているんだ」
「え?それ、やっぱり私に言ってるんですか?…って、いやいや、あり得ないですから!」


思いっきり手と首を左右に振って見せる。


「それ、キャンセルしてください」
「いや、でも疲れていると…」


首を傾げる彼を見て、この人にはきちんと伝えないといけないのだと声を大きめに答える。


「疲れてはいません。あれは言葉のあやです。なので、とにかくキャンセルしてください」

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