突然現れた御曹司は婚約者
「そうか?それなら仕方ない。…悪い。今の話はなしだ」


良かった。

意味は分からないけどとりあえず良かった。

ただ、目の前の男性はあまり納得いっていないようで、電話を切ると少し身を乗り出して私に向かって言った。


「遠慮することないんだ。エステサロンは従姉妹が経営しているものだから、使いたければいつでも使って構わない。『東堂の嫁』と言えば最優先で施術してくれる」
「『トウドウの嫁』?」


そっぽ向いていた牧田くんが彼の言葉の一部を切り取り、そして確認するように私と彼を交互に見た。


「いや、知らないよ」


少なくとも私はトウドウという名の男性を知らない。

だから当然『嫁』と言われてもピンとこない。

それなのに男性は間違いないと言う。


「星崎栞。26歳。亡きご両親に代わりきみを育てた御隠居様の教えにより書道、華道、茶道に関して師範を有する女性。そしてそのひとこそ東堂の嫁になる人物だ」
「どうして…」


嫁云々はさておき、家族のこと、師範のことは付き合いの長い牧田くんでさえ知らないのに、なんでこの人は知っているの?


「きみのことならなんでも知ってる。そうだな、たとえば髪の長さ。それは結えるように肩までの黒髪セミロングにしている。身長は165センチで体重は50キロ前後。スリーサイズは上から84.60.8…」
「わぁぁ!ちょ、ちょっと!なんなんですか、いったい!普通じゃありませんよ!ストーカーかなにかですか?!」


スリーサイズまで知ってるなんてさすがに気持ち悪い。

ただ彼は心外だと言わんばかりに口元を歪めた。
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