Room sharE


エレベーターに二人乗り込んで、目的の階数のパネルを押し、ゆっくりと地上から離れて行く感覚に身を委ねていると目的の階数にあっという間に到着した。


一番最初にタナカさんと会ったとき、あんなに長く感じたあの瞬間は、もうどこにもないような気がした。


何となくエレベーターを先に降りようとすると、後ろからぐいと腕を引っ張られた。


強引なのに、どこか優しいその手つきに嫌な気は少しも起きなかった。むしろそうしてほしいとさえ願っていた。


彼は力強く私を引き寄せ、その厚い胸に私を掻き抱いた。


彼の香りを、温もりを体いっぱいに抱き止める。


鉄の塊、エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。


目的の階なのに私たちは降りることなく、ただ黙って抱き合った。


タナカさん



タナカさん――――






「しゅう……」





彼の名前を呼びかけたとき


彼の唇で、口に出した名前はかき消された。


その瞬間、するりとケーキ屋のビニール袋が私の手の中から滑り抜け、床に落ちた。


今日のユウキへのお土産はミルフィーユだった。


一枚一枚丁寧に焼き上げたパイ生地がこの店評判の






まるで



私の罪を重ねるように―――






私はいつから裏切りものだったのだろう。


タナカさんからもらった聖書を思い出す。


私はいつから







イエスを裏切ったユダだったのだろう。








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