Room sharE

Day6. DarkCherrypie ♣Kiss




閉まったエレベーターの扉は開くことなく、降下する感覚を足裏で感じた。きっと誰かが階下でエレベーターを呼んでいるに違いない。


タナカさんの口づけで押されるようになって、細いヒールが傾き、よろけながら壁際に背をつくと、覆いかぶさるようにタナカさんの手が腰に回ってきた。


エレベーターの中、私たちはただ、抱き合って夢中で口づけを交わした。いつ、エレベーターが開くか分からず、ちょっとのスリルと興奮が甘美なキスに拍車を掛けたのかもしれない。


彼の舌が私の歯列をなぞってやや強引に入ってきたときも、私はそれに素直に応えた。


私の腰に回したタナカさんの手。田中さんの首に回した私の腕。そして絡まった舌と舌。そのつなぎ目から互いの気持ちが流れ込むような―――そんな感じ。


タナカさんの力強い腕や舌は―――決して強引ではなく、“奪う”ものではなく“守る”もののように思えた。


こんな風に―――誰かに優しくされたのは、はじめてかもしれない。


タナカさんの唇からは爽やかなシトラス……きっと歯磨き粉の香りね……に、混じってほんの少し


タバコの匂い。


「知らなかった―――タバコ……吸う人だったのね」


唇を離すとタナカさんの胸ら辺に手を置き、私は目を伏せた。何故だか彼の目を見られなかった。


タナカさんも敢えて私の目を覗き込もうとせず、その顎先を私の頭頂部に乗せ


「だって、嫌いだろ?タバコ」とタナカさんの小さな声が頭上から降ってきた。


甘い口づけの合間に交わす言葉にしてはあまりに色気のない会話だったが、妙な照れくささと言うか……本来踏むべきステップを一段飛ばしに飛ばしての行為に、何となく戸惑いを感じていたのも事実。


「ええ……嫌いよ。でも私―――タバコ嫌いって言ったかしら…」最後まで言わずに、少しばかり強引な仕草で顎を持ち上げられ、


再び優しい口づけが降りてきた。


ふいにエツコの言葉を思い出した。



『いい男って言うのは危険が孕んでるものよ。気を付けた方がいいわ』



何故―――このタイミングで……


今思えばエツコは忠告していたのかもしれない。


タナカさんが―――







危険な男だと言うことを。




でも

危険な男だと思っていても




危険な恋でも






今更引き返せない。




ただ今は堕ちるだけ。






エレベーターのように。ゆっくりと。けれど




確実に―――







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