Room sharE



“あのマンション”がどこを指しているのか、わざわざ確認するまでもない。一週間だけ俺たちが……間借りしていたあの部屋の隣


4017号室。


――――城戸 冬華の部屋だ。


「一年の間に自殺者が二人。そして殺人が一件。あのマンションは呪われてるとしか言えませんね」


警部補がどこか真剣みを帯びた表情で空を仰ぎ、その眉間に深く皺を寄せていた。


俺は呪いなんて信じない。


そんな非科学的なものなんてこの世に存在などしない。


けれどもしあるのなら――――それは



『愛』




が形を変えたものなのかもしれない。


俺たちが張り込みに利用していた部屋は4016号室。冬華の部屋の隣の部屋だった。そこの元住人は


清水 玲子と言って、年齢は冬華の一つ上で生きていたら今年で34の筈だった。去年のこれぐらいの時期に亡くなっている。飛び降り自殺だった。




写真で見た清水 玲子はどこか垢抜けない田舎くさい感じの地味な女だった。あの華やかで優美な冬華と仲が良かったと言うのが疑わしいが、コンシェルジュの話によると彼女らは良く連れ立って外出していた、と言う。どこかちぐはぐだった二人だから良く覚えていたらしい。


冬華はあのマンションを父親に買って貰ったと言っていたが、玲子の場合は数年前に亡くなった父親の遺産で買ったものだったようだ。状況は違うが似たような環境に二人はいつしか心を通わせていたに違いない。そもそもあの閉鎖的なマンションで、それだけ似た環境の女が隣同士になる、と言うこと自体運命じみている。


だがそれは全くの偶然であり、そこには何の意図もない。


これは古株のマンションコンシェルジュに裏を取った。


彼は―――個人情報保護法の為、ここでは敢えて名前を伏せるがU氏とでもしておこうか。氏は…居住者の情報は教えられないと、最初は突っぱねっていた。冬華の死があり、更には彼女の証言通り松岡 優輝の遺体が彼女の部屋で見つかったと言う事件で、連日多くの報道陣が押しかけてきて迷惑だと言った。これ以上マンションの品位を落としたくない、と思っていたようだ。コンシェルジュとしては有能だが、市民は警察の捜査に協力する義務がある。


しかし教えられない、の一点張りだった


が、


「未成年時の飲酒喫煙、道路交通法違反に、器物損壊、窃盗―――ほぉ……おたく色々マエ(前科)があるようだな」と手帳をペラペラめくると


「今更時効でしょう?私が高校生の頃の話だ。今更引っ張ってきたってそれで逮捕はできませんよ」とU氏はあっさり。まぁ“今は”爽やかコンシェルジュの制服に身を包んでいるが、十代の頃は特攻服なんて着て改造したバイクを乗り回していた……所謂暴走族ってヤツだった。


「逮捕はできないが、この前歴をおたくの会社に“報告”することはできる。クビになりたくなきゃ、言いな」と


まぁ、『脅した』わけだが、氏は大きく舌打ちしながらも「これだからオマワリは嫌いなんだよ」と吐き捨て、それでも居住者の名簿一覧をしぶしぶ開示してくれた。


「生憎だが俺はお巡りでもなく、サツでもなくデカ(刑事)だけどな」


言ってやると、氏は大仰に鼻息を吐き、俺を睨んでいた。そして手に入れた情報だが、


居住歴は玲子の方が長く、今から三年前の春になっている。その半年後、冬華が越してきた。


冬華も玲子もともに父子家庭であった。イマドキ珍しいことではないが、似すぎる環境が彼女らの距離を急速に縮めたのだ―――と想像するほかない。


何せ二人とも死んでいる。口を利くこともできない。


とにかく、そんな風に友達のように姉妹のように仲の良かった二人の関係が変わったのは、今から一年前の話だ。




冬華と松岡 優輝が交際をはじめたのもちょうどこの頃。




偶然――――……?


なんて言葉俺は嫌いだ。





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