Room sharE



こうして事件は不本意だが被疑者死亡の為、書類送検と言う形で終息を迎えることになった。


― 約二か月後


ようやく俺の中で事件にピリオドを打つことができた……ように思える。


俺は今、城戸 冬華の墓に来ている。ピカピカに磨かれた真新しい御影石には“Huyuka Kido”の筆記体が彫られていた。


彼女が好きだった花、薔薇の花束を置き、傍らには彼女が最後に口にできなかったであろうショートケーキを、添える。手を合わせてゆっくりと目を閉じていると、ここ二か月の間に走り回った記憶だけが走馬灯のように蘇る。


冬華の墓を前にして、考えるのは事件の真相――――


こうゆうとこ、根っからの刑事だと思うよ。冬華が言った通り。



『やっぱりあなたは嘘つきね。今度のは一番酷いウソ。

あなたにそんなことはできない。


だってあなた、有能な刑事さんだもの』


「どっちが嘘つきなんだか」


思わず苦笑いをこぼすと、






「警視!





ここに居らしたんですね」





俺の相棒が、安物の薄いコートの前を寒そうに合わせてゆっくりと歩いてきた。


季節は三月だと言うのに今年は未だ気温が上がることはなく、外気はひんやりと冷たい。




― あのとき………――――冬華が死んだ夜のように



「勝手にどこかへ行かないでくださいよ」


俺の相棒は俺より三十も年上の警部補だ。ただし、彼はノンキャリだし階級は俺の方が上である。


警部補は……俺のバディになってから一気に五歳ほど老け込んだ気がする。警視とは名ばかりで窮屈な管理職は俺の性に合わない。警視庁でぬくぬくしてりゃいいのに、俺は現場が好きだ。そんな俺に振り回されている可哀想な警部補。


自分の息子程の年齢の若造と組まされて、さらにはこの“無謀”な作戦に付き合わされた彼に、今は少しばかり同情する。


ここは一つ人生での先輩の言うことを聞いて、大人しく桜田門に帰るとするか。今俺が帰るべき場所はここじゃない。


『警視庁捜査一課』だ。


「調書の方はどうです?進んでいますか?どうも俺事務作業が苦手でして」とコートのポケットに手を突っ込んでうっすら笑うと


「私も苦手ですよ。何せ現場一筋三十年ですからね」


年かさの警部補も苦笑いで答え、何かを思い出したようにぽんと手を打った。





「そう言えばあのマンション―――もう売りに出されていましたよ」



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