彩―IRODORI―
「難しい、ですか」

あたしはカズヤ先生の言葉を繰り返した。
分からないことはない。
なんとなく、分かる。
だけど、その言葉の意味が知りたい。

「僕は教育実習生だけど、一応教師として学生に接しなくちゃいけない。だから、みんなのことは平等にしなくちゃね。誰か一人をひいきしちゃいけない」
「実際、ひいきされてる人はいると思うけど」
「そうだね、確かに」
「ハッ、すみません!」

つい、思ってることを口にしてしまった。
とんだ失態だ。

「いいんだよ。だけど、ひいきしないように心つもりはしておかないとね。だから、難しいんだ」
「はあ、そうなんですか」
「僕が高坂さんのノートを借りたことも、僕にとってはそのつもりじゃなくても、ほかの子からはひいきと思われないかなって」

あたしは、どういうことか分からなかった。
こういうとき、あたしのバカさ加減にいつもムカつく。

先生は微笑んでいた。
でも少しさみしそうに。
< 102 / 123 >

この作品をシェア

pagetop