契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

『おねえちゃん……あたしのこと、恨んではる?』

それこそ、栞が今まで聞きたくてもなかなか聞けなかったことだった。
稍は弾かれたように驚いて、栞を見た。

『なんで、あたしが栞ちゃんを恨まなあかんのん?……そんなわけないやん』

『そやかて、おねえちゃんからおかあさんを引き離したのは……おかあさんを連れて行ってしもうたのは……あたしの本当(ほんま)のお父さんやし……』

栞は俯いた。長年の間、日に(さら)されて茶けてきた畳が目に入る。はっきり見えていた藺草(いぐさ)の目が、だんだんとぼやけてくる。

ぱちりと瞬きすると、その目に溜まっていたものが畳の上にぽとり、と落ちた。
それを見て、自分が知らず識らずのうちに気を張り詰めていたことに気づいた。

しかし、気づいたときにはすでにそれは、(ほど)けるように緩んでしまっていた。
気の張りを失った栞は、崩れ落ちるように背を丸めて(うずくま)った。

『……う…うぅ……っ……』

栞の口から(こら)えきれず、すすり泣きの声が漏れる。その華奢な両肩が気弱に震えていた。

『栞ちゃん……』

稍は膝立ちで近づいて、妹の背中にそっと手を置いた。

『あたしは……どんなに寂しいときでも、あんたがいてくれたから、がんばれたんえ。
たとえ、父親が(ちご)うても、あんたがあたしの妹であることには変わりないんやから。
あの人らが……栞を一緒に連れて行かへんでよかった、って思うてるくらいなんやで』

そして、何度も、何度も、やさしく撫でてやった。

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