契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「たっくん、聞いて……」

栞はおずおずと神宮寺を見上げた。
実は彼がこの目に弱いなどとは、栞はつゆほども気づいてはいない。

「あたしは……母親が不倫してた既婚者の(ひと)との子やって言うたやろ?
『智史』っていうのは、その既婚者の男と奥さんとの間に生まれた息子のことやねん。
せやから、あたしにとっては『母親違いの兄』にあたる人や。
近所に住んでたときは、ほぼ毎日()うてたらしいけど、あたしは赤ちゃんのときやったからまったく覚えてないし……どういう経緯(いきさつ)かは聞けずじまいやったけど、あたしがおねえちゃんに通話したときに、なぜか一緒にいたはってん」

「ふうん……じゃあ、栞の『姉』は『父親違いの姉』っつうことになるのか……」

「姉」の(やや)とは母親が同じで、「兄」の智史とは父親が同じだということだ。
なので、稍と智史には血のつながりはなく、赤の他人だ。

なんとも複雑な人間関係だが、さすが人物を設定して小説を書くのが生業(なりわい)の神宮寺である。すんなりと理解できたようだ。

「……わかってくれた?」

栞は神宮寺を見上げつつ、小首を(かし)げた。それがいかに彼から理性を奪ってしまうかということを、彼女はやはりつゆほども気づいていなかった。

「あぁ……疑って悪かった」

殊勝にも神宮寺が謝った。
この姿を担当編集者の佐久間 しのぶや池原 隆士が見れば、ひっくり返って二度と起き上がれなくなるかもしれない。

「だから……きちっと(・・・・)『謝罪』させてもらう」

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