契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
そして、次の瞬間……
キングサイズのベッドに座っていたはずの栞は、神宮寺に押し倒されていた。
「ちょ、ちょっと……たっくん……?」
あっという間に視界が天井にひっくり返った栞は、のしかかってくる神宮寺の胸へ向けて、拳でとんとんっ、と「抗議」した。
ところが、神宮寺は一向に意に返さず、
「……これから、心を込めて『謝罪』するからな」
と甘く告げて、熱のこもった目で栞を見つめる。
その目に「身の危険」を察知した栞は、
「『先生』……お腹すいたから階下に降りてきはったんやなかったんですかっ?
それに、お仕事はもうええんですかっ?
しのぶさんの文藝夏冬だけやなくて、池原さんの古湖社の分もあるんですよっ⁉︎」
神宮寺の気を逸らすために尋ねてみた。
そのとたん、彼は険のある顔になった。
金輪際、栞からは「先生」とは呼ばれたくないからだ。
「減った腹は……栞で満たしてやる」
神宮寺は食欲を性欲で乗り越える、という斬新な「飢餓対策」を宣言したかと思えば、
「……考えてみれば、世間はGWの大型連休中なんだよな?先刻、栞は通話で自分の姉さんに『先生が……その……急な仕事で……離してくれへんくって』とか言ってたけどさ。いくら身内の人といえども、栞のことをGWなのに夫に仕事をさせるような『鬼嫁』なんて思われたくないなー。むしろ、栞の夫であるおれの方が大型連休に『家族サービス』をしなければならない義務があるしな?」
ほとんど棒読みの声でしらじらしくそう続けて、
「せやったら、おねえちゃんのとこへ行かしてくれはったらよかったのに……それにまだ、婚姻届はお役所に受理されてへんし……」
と抵抗する栞の、ぷるっとしたくちびるを自らのくちびるでしっかりと封じた。
それでなくとも、京都市内から遠ぉーく離れた(ほとんど奈良の)山奥の「ぽつんと一軒家」にいるのだ。彼らを訪れる者はだれもいない。
そのあと栞は、昼夜を問わずカラダの芯までぐずぐずに蕩けさせられる「神宮寺の謝罪」をさんざん受ける羽目となった。
どんどん、神宮寺なしでは生きていけないカラダに造り直されているみたいだ。