契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「先生、千尋に言って松波屋で用意してもらうよう手配しましょうか?」
しのぶの夫の佐久間家は、老舗デパート・松波屋の創業家の一翼を担っていた。
「いや、いい……従兄に頼むから」
「あっ、そうですよね」
しのぶは肩を竦めた。
神宮寺の実家の本田家が、松波屋と肩を並べる老舗のデパート・華丸百貨店の創業家の一翼を担っていたのを思い出したからだ。
「栞ちゃん、先生はお金持ってるからね。
宝石の大きさとかデザインとかに希望があったら、遠慮なく先生に言いなさいよ?」
……今の先生だったら、栞ちゃんのためにどんな高価なリングだってぽーんと買ってくれるはずだわ。もし「契約満了」になったら、売ればいいのよ。
しのぶの顔が、まるで江戸時代の遣り手ババァのようになっている。
「そうだ……ついでに婚約指輪も買ってもらいなさいよ」
「えっ、そんな……とんでもないっ」
栞は首と手のひらを同時に左右に振った。
「あら、栞ちゃんは『作家・神宮寺 タケルの妻』になるのよ?今は守ってあげられてるけれども、いずれ世間にバレたら、否応なく出版記念パーティとか華やかな席に引っ張り出されることになるわよ」
栞は「えええぇーっ⁉︎」とムンクの顔になる。
「そういう場では、婚約指輪と結婚指輪を重ねてつけるといいわ。わたしがそうしているの。
でないと、毎回違うアクセサリーを用意する羽目になるわよ?」
しのぶはマリッジと同じフレッドのフォース10のエンゲージも佐久間からもらっていた。