契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「あんた……先刻(さっき)から黙って聞いていればええ気になってべらべらと御託並べてるけどな。
実際の子育ては、そんな机上の空論でできへんわっ!だいたい、子どもを産んだこともないような人に『母親の気持ち』はおろか『親の気持ち』のなにがわかるって言うのよっ⁉︎」

(たま)りかねた登茂子が、ぷるぷると唇を震わせながら怒鳴った。

「確かに……あたしは、あなた方がとっくの昔に忘れ、そして今回の件ではすっかり(ないがし)ろにしてしまった『子どもの立場』からでしか、この事象を見ていないのかもしれませんが」

栞は伏せた目を上げて、登茂子を見つめた。
まるで、鬼子母神のように憤怒に満ちた形相が視界に入ってきたが、怖くはなかった。

「お腹を痛めて産んだ母親である」ということが「絶対」だと信じて疑わない……言い換えればそこにしか拠り所がないその姿を、ただ哀れに思っただけだ。

子どもを持つべきでなかった、とまでは烏滸(おこ)がましくてとても言えないが、今までこの人は子を持つことでなにを学んできたのだろうか、と栞は思わざるを得なかった。

……仕事は人一番できて、職場での人間関係は上手くやらはりそうやけど。そのしわ寄せはすべて「家庭」に来た、って感じやなぁ。
本当(ほんま)に心を許せる相手もいなさそうやし。

もしかしたら、唯一心を許せたのが、みどり(友だち)だったのかもしれない。

……でも、裏切られてしもうた。

しかも、智史(息子)までも奪っていこうとした。

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